上司の足音を聞くと、体がすくむ
上司の足音を聞くと、体がすくむ。
体が「次の攻撃」に備えて、かまえてしまう。
上司を前にすると、猫背になる。
どうにかして視線を合わせまいとするから。
上司が自席に近づいてくると、冷や汗が出てくる。
「また何か言われることがあるだろうか」と反射でかまえてしまうから。
上司が自席を通り過ぎると、ホッとする。
「やっと仕事に集中できる」と、肩の力が抜ける。
上司がタバコを吸うと、仕事に集中できる。
席にいないだけで、安心する。
上司が声をかけてくると、ヒヤッとする。
あの嫌な時間を思い出すからだ。
上司の機嫌が悪いと、心が重くなる。
そういうときは必ずと言っていいほど、毒を吐かれるから。
でもその上司も、機嫌がいい時は明るく声をかけてくる。
私は毎回、愛想笑いをするか少し迷って、愛想笑いをしてしまう。
そして上司が明るいうちに離れていく。
明日の上司の機嫌は、良いといい。
この上司が異常だと気付いたとき
新卒入社、初めての上司。
この上司、嫌われてんのかな?
そう初めて思ったのは、先輩二人の相づちを見たときだった。
先輩二人とも、私と話すときはすごく優しくてかわいらしい人たちだった。
一方で、課内のミーティングのときの顔は、控えめに言っても死んでいた。
「今からいい?」
そう上司に声をかけられた途端、死んだ魚の目になる二人。
ミーティング中は、上司と目を合わせず、明らかに話を右から左へ流しており、頭を上下に振るだけの機械と化していた。
私と話すときは「うんうん」と二人とも言ってくれるのに、ミーティングのときには二人とも一言も言葉を発していなかった。
私は、こんなに愛想のない相づちを22年間生きてきて、初めて見た。
えっ、上司がかわいそう・・・
当時そう感じたピュアな私も、1年後、先輩と同じ道を辿ることになる。
新卒入社した半年後に、先輩が辞めることになった。
新卒入社した1年半後に、もう一人の先輩も辞めることになった。
この2年間で辞めた人は、私のチームの二人を除いて、一人もいない。
この上司の下で働く部下は一人残らず、辞めていくのかもしれない。
この上司は、当然のように部下を見下すくせがある。
業務の話をするとき、容易に部下を貶める。
「あの人は仕事が遅くて信用ならない」
「あの人は仕事が雑でね・・・」
私は、そういった言葉を聞くたびに疲弊し、息が苦しくなった。
私はチームの誰のことも、悪く思っていないからだ。
なぜなら私は、チームの人がみんないい人で、優秀な人達だと知っている。
この優秀な人たちを活かしきれない彼に、正当な評価は下せまいということなのだろう。
私が彼に「業務量をなんとか減らしてください」と伝えると、こう返ってくる。
「ああ、もしかして睡眠が足りていなくてイライラしてる?」
「もしくは、イライラしやすい"そういう"時期なのかな?」
「一回寝たらスッキリすると思うから、今日は定時で帰ってたくさん寝てね」
定時で帰ってたくさん寝たスッキリした頭でもう一度モノを申すと、次はこう返ってきた。
「その言い方はよろしくないね。」
彼と話していると曲解して理解されることがあるので、「私の伝え方が悪かったのかもしれません、私が言いたいのはこういうことなのですが」と伝えると、
「うん、確かにあなたの伝え方が悪かったね。」
彼の話し方はかなり遠回りをするので、頭で考えながら聞く必要がある。
彼の言い分を考えながら聞いていたら、こう言われた。
「分かったなら頷いてくれる?じゃないとあなたが分かっているのか、こちらも分からないんだけど。」
一方で、彼は容易にこういうことを言ってくる。
「皆さんが大変なのは何よりも分かっています」
「これから人手が足りなくて大変な時期ですけど、この時期だけは仕事を趣味だと思って働きましょう!」
「皆さんには期待しています!一緒になんとか乗り切りましょう!」
(ただし自分は業務に携わらないし、好き嫌いで仕事を選ぶ)
私は、彼の二枚舌と、容易に人の心をズタズタにする無神経さについていけなくなった。
そして、先輩と同じ道を辿ることになる。
上司とは絶対に目を合わさず、具体的な指示以外は聞き流す。
そして、頭を上下に振るだけの機械と化したのだ。
私はもう、彼に期待をすることはないだろう。
彼は、自分の利権のことしか考えられない、器の小さい哀れな人間なのだ。
彼は今日も、自身の無能さを隠すため、上司にゴマを擦る。
余談)
霜降り明星のせいやさんによる「話聞いてるが最初から否定する気しかない人」を見たとき、ハッとした。
彼のふるまいに、あまりに似すぎていたから。
そう。
彼は、部下の話を聞いているように見せるだけで、全く受け入れる気はない。
(霜降り明星さん、大好きです)